外道を倒したと思って弟妹たちと戯れる卑怯番長。 和やかな光景に、ドリル番長も改造番長も視線を交わして微笑みあう。 卑怯が勝ち取った平和の光景を、昏い瞳で見つめる者があった。 昏い昏い――暗黒のような双眸。 人間の負の感情を煮詰めて溶かしこんだような黒の瞳を持つ男はしかし、その唇に笑みを浮かべていた。 「まだまだ甘いねぇ……優」 彼が唇を舐めた途端、はろばろの家が爆発する。響き渡る悲鳴。とっさの行動で子供たちは守られたが、怯えた震えは止まらない。 どういうことだと困惑する卑怯の肩を、男が後ろからぽんと軽くたたく。 気配に全く気がつかなかった。卑怯番長はそのことにおののきながらもふりかえる。 するとそこには、自分とまったく同じ顔をした男が立っていた。 「――――貴様っ!?」 「大切なものを傷つけられて、その程度か。がっかりだね」 秋山優の顔をした男は、無造作に足を払う。ほとんどゼロに近い予備動作に、卑怯番長は避けることもできずに吹っ飛ばされてしまった。 「あ、あいつだ……!」 塀にめりこんだ卑怯番長の周りに集まる弟妹たち。幸太が震える手で男を指差す。 「あのニセモノの優兄ちゃんが、俺たちを殴ったんだ!」 「まさか……」 はっと顔をあげて男を睨む卑怯。挑戦的な視線を受けて、昏い瞳の男はニタリと笑った。 「久しぶり、優。もっともお前は覚えちゃいないかな? 生き別れの双子の兄なんてさ」 息をのむ卑怯。その驚愕を無視して、男は卑怯へ歩み寄ってくる。 間に横たわった白学ランを、眉一つ動かさずに踏みつけて。 「お前の本気ってやつを見てみたかったけど、大したことないね。所詮は生徒会に入れなかった番長。同じ血が流れているからと言って興味を持った俺が間違ってた」 「まさか、貴様はっ……!」 しこんだ銃に右手をやる卑怯番長だったが、遅い。男は卑怯の左手をはっしとつかみ、壁に押さえつける。 「そうさ。俺こそが本当の外道番長。フェイクを倒した程度で、安心していちゃあいけない」 男は卑怯の左手を動かし、頭のほうへ持っていく。意図に気がついた卑怯が必死で抵抗するが、力で敵う様子ではなかった。 「引き金みーっけ♪」 「や、やめろ!」 晴れ渡る青い空に銃声が轟いた。 男は楽しそうに、嗤う。 「俺って、最低ですかぁー?」 |