頼むから目をつぐんでくれ

■大和田紋土の独白。
■石丸くんの片思いに紋土くんが気づいてる。



 兄弟はいい男だ。冗談じゃねぇ、これはガチな話だ。この俺が認めてんだから、そりゃもう決まった話だっつうんだ。まっすぐで、裏表もねぇし、ちょっと周りが見えてねぇところもあるが、熱いハートの潔い男だ。じゃなきゃ兄弟の契りなんざ交わしちゃいねぇ。男同士の誓いっつーのは冗談や遊びでやるもんじゃねぇんだ。俺がマジで言ってんだってこと、わかってくれ。
 兄弟はいつだって全力で目の前のもんにぶつかってく。おっそろしくでけぇどんぐり目をかっぴらいて、肩いからせて、怪我するこたなんざひとっかけらも考えずに突進してくんだ。チームにいたら特攻隊長は兄弟で決まりだ。他の誰だって兄弟にかないやしねぇ。あの目に見すえられちまうと、俺ですら時に震えがきちまう。
 メンチのきりあいだったら負けやしねぇんだが、兄弟は別にガンつけてるわけじゃねぇ。正眼? っつうのか? 相手をひたすらまっすぐ見てるだけだ。兄弟は自分の目が威嚇してるだなんて思っちゃいねーだろうよ。見てぇもん見て、言いてぇこと言って、思ったまんまの感情をあけすけに両目に浮かべてやがるだけだ。たとえ口をつぐんだって、目をのぞきこみゃ何考えてんのかわかっちまう。兄弟は頭んなかを無造作に瞳にさらけ出していて、俺はガラにもなく顔を赤くしちまいそうになる。

 人間っつーのは裸で暮らす生きもんじゃねぇ。靴を履く。下着をつける。服を着る。女なら化粧でもすんだろう。
 俺としちゃあ腹かっさばいて裸のつきあいをするのが一番だと思っちゃいるが、四六時中裸でいやぁ風邪をひく。隠してるもんや、おいそれとは話せないもんがあるってことを了解しながらお互いつきあってんだ。裸を見せあえるやつはそうそういねぇ。

 だから、超高校級の風紀委員と暴走族って間柄だっつうのに、兄弟と呼びあえるまでになった男のことは、かけがえのないもんだと思ってる。その気持ちに嘘はねぇ。アイツが危ねぇ時には助けに駆けつけてやるし、兄弟なら俺が危ねぇ時に背中を預けられる。兄弟だっておんなじことを思ってるだろう。俺たちの間には血と同じくれぇ濃くて熱いもんが流れてて、そいつが俺らを結びつけてんだ。
 兄弟はそいつを友情と呼んだ。友情ってのは、ダチとダチの間にあるもんだ。熱いたぎりと強い思いがありゃそれだけでいい。なよなよジトジトしたもんは女に任せて、男はバシッと潔く、格好良くなきゃいけねぇ。そうだろ?

 ――と、尋ねりゃ兄弟は「無論だとも!」と胸はって答えんだろう。
「だよなぁ! そうに決まってらぁ。やっぱ兄弟は話がわかるぜ」なんてアイツの肩を叩いて二人で笑いあう。
 けど、ある時俺はあいつの目を見ちまった。つつみ隠さず思いを伝える二つの瞳に、あいつが隠した色を見つけた。


(違う)


 ひらめいた言葉は俺が思ったもんなのか、それとも石丸の心を読みとったもんだったのか。石丸の言葉も、顔も、気配も、ぜんぶがそうだっつってんのに、目だけが違うことを訴えてやがった。
 兄弟でも隠しごとをすんのかと驚いた一拍あとに、この俺に隠しごとをすんのかと頭に血がのぼった。胸ぐらつかみあげようと正面にむきあうと、石丸の目が俺を見てやがる。隠せねぇ色を、その目いっぱいに浮かべて。

 そいつはおそらく、言葉にしちまえば二文字か三文字のシンプルなやつなんだろう。のぼった血がスッと流れ落ちて、逆に冷てぇくらいだった。気づかなきゃ良かったなんて思うが、あとのまつりだ。
 兄弟の声音も仕草もダチ同士のもんだってのに、気づいちまったら、それがぜんぶ嘘だってわかる。両目に映ったその色だけが兄弟の本心で、他はきっと、化粧みたいなもんなんだろう。
 両目の語る声は兄弟の説教よりうるさかった。ペラペラと、饒舌に、延々喋ってやがる。息つぎがあって反論ができるだけ、説教のほうがマシかもしんねぇ。驚いたことに、俺は両目の話を口ごたえひとつせず聞いている。
 兄弟は自分の本心がダダ漏れだなんて気づいちゃいねぇ。自分じゃ隠しきれてるつもりなんだろう。だったら俺もそいつにつきあって、兄弟の隠しごとを見ないふりをしてやろう。そう思ってそこそこ長いことたった。兄弟の目の色はますます濃くなって、声はますますうるさくなった。つのるばかりのなんとやら。ますます俺は兄弟の目をまっすぐ見られなくなる。

 なぁ兄弟、頼むから目をつぐんでくれねぇか。

 いつか声に出して言ってしまいそうな言葉を、俺は今日も腹んなかにしまいこむ。さすがに兄弟みてぇに目に浮かぶってことはねぇだろう。俺が兄弟の本心を知っていることは、兄弟は知らねぇ。
 それでもいずれ俺たちは、腹を割って隠しあったもんを見せる日がくる。でなけりゃ俺はアイツを兄弟と呼べねぇし、アイツだってそうだ。その日を越えても俺たちは兄弟でいられんだろうか。先延ばしするのは俺も兄弟もいっしょで、まるでほんとの兄弟みたいに似てやがる、と苦笑いしちまう。
 そんな俺を見た兄弟は、両目の色をそのままに「どうしたのだね?」と眉をあげるんだろう。そうしたら俺は「なんでもねぇよ」と嘘をついて、アイツの頭をくしゃくしゃ撫でてやろう。そうすると兄弟はマッサージされてる犬みてぇに、気持ち良さそうに目を細めるから、俺は少しだけほっとする。
 そして少しだけ、本心をこぼしてみたりする。
「兄弟の目はいい目だよな。俺は嫌いじゃないぜ」
「ハッハッハッ。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。僕も兄弟の目は漢気に溢れるいい目だと思うぞ!」
 そう言って兄弟は笑う。そんで、瞳が見えなくなる表情をもの足りないと思うくらいには、俺はきっとほだされてる。
 ああ、クソッ! 兄弟、てめぇはいやんなるくらいいい男だ。俺が認める兄弟だ。だから、もう少しだけ時間をくれ。両目の声を聞き流すんじゃなくて、きちんとむきあえるくらいの時間を俺にくれ。そしたら俺は覚悟を決めて、腹に隠した言葉と、その奥の奥にしまいこんだ、俺の本心を見せてやるから。そんときゃきっと俺の目にも、兄弟とおんなじ色が浮かんでる。

2013.11.23up@pixiv