004

■注意
■キング外伝発表前(73話発表時点)での情報を元に書いています。
■ので、外伝ので明かされたヘルブラムの情報とは著しく矛盾しています。
■キングちゃんとヘルブラムとエレインちゃんのほのぼの書きたかったんです。
■お許し下さる方のみ、どうぞご覧になって。



 人の世界の果ての果て。いくつもの山河をまたぎ、奥深い森の厳しい試練をのりこえたその先に、妖精王の森はあります。
 強大な魔力でもって生命の泉を守る妖精王によって、森は永く、平和な時を送っていました。妖精の持っている時間は、人の持つ時計では測りきれません。遠い、遠い昔のお話です。

「まったく、どこに行っちゃったのかしら」
 うららかな午後の陽が落ちる妖精王の森。何百年も生きてきた立派な木々のあいまを縫って、白い影がふわりふわりと飛んでいきます。金糸のような髪をなびかせて、あたりをきょろきょろうかがう彼女は、妖精王の妹姫、エレインでした。困ったようにとがらせたくちびるをそっとなでて、エレインはつぶやきます。
「みんな待ってるのに。兄さんには呆れちゃうわ。でも、これだけ探してもいないなら、もう残りはあそこしかないわね」
 エレインは丸い瞳をきっ、と森の奥にむけます。彼女の兄――すなわち妖精王のお気に入りの場所はいくつかありました。エレインは王を探してそこを回っていたのですが、どうやら彼は最後の一つにいるようでした。皆を待たせていることを、妖精王は知っているのでしょうか。エレインは風すらおこさずに素早く飛びはじめます。

 妖精王お気に入りの場所は、森の奥、切り立った崖の半ばにちょっぴりだけつきだした小さな足場でした。人の足では到底行けそうにない場所ですが、宙を浮かぶ妖精にはどうってことありません。
 木々に覆われずに天上から地平の裾野までをはるばると見渡せる風景は、いつも妖精王の心をくすぐります。もともと子供っぽいところのある兄でしたが、そこで森の外を眺める横顔はいっとう子供らしく、エレインはあんまりこの場所が好きではありませんでした。兄は森を守るべき王なのです。外を見るときは招かれざる客人がもたらす禍を憂うべきなのであり、なにかを待ち受けるようにまっさらな瞳で見つめるべきではないのです。
 あまり気の進まない場所でしたが、やはり妖精王はその崖にいました。一人ではなかったようで、話し声が聞こえます。近づいていくうちに聞こえてきた内容を理解して、エレインは頭をかかえたくなりました。



「ヘルブラム、君のセンスは間違ってる。オイラのほうが絶対にカッコイイ!」
「はははっ、王様だからっていい気にならないほうがいいんじゃないのかね? ハーレクイン。もみあげの長さはちょっと気を疑うよ」
「なっ! それを言うならそのアイパッチはどうかと思うね! あごひげにアイパッチなんて、 全然似合わない!」
「ふう〜ん、言うねぇ〜。そんな格好だってのにさ」
「物事ははっきり言った方がいいんじゃないかな、ヘルブラム?」
「いやいや、王様に意見するなんてとてもとても」



 頭から湯気をだしている兄の姿が目に見えるようです。エレインが崖のうえからちょこんと顔を出すと、そこには二人のおっさんが睨みあっていました。
 恰幅のいい短髪のおっさんがハーレクイン――つまりエレインの兄であり、妖精王でした。そして、眼帯をした顎髭のおっさんがヘルブラム――兄と仲の良い男でした。二人とも、本当の姿よりもずっと年を経た姿に形を変えています。妖精ならだれでもできる技でしたが、エレインは深くため息をつきます。どうやら二人は、変身した姿のどちらがより格好いいかでもめているようでした。

「二人とも! もうみんな待ちくたびれてるわ。早くあがってきて!」

 声をあげると、二人の目がエレインを射ます。いいところにやってきたと雄弁に語る瞳に、エレインは小さく呻きました。

「エレイン! もちろんオイラのほうがカッコイイよね? 男はやっぱり包容力だよ」
「ハーレクイン、身内に強要する賛辞は嬉しいか?」

 すぐに浮かびあがってきた男二人はエレインの前でも口げんかをやめません。エレインにとっては、どっちもどっちでした。

「そんなのどっちだっていいわ。ほんとの姿で行けばいいじゃない。どうしてそんなウソの姿になるの?」

 呆れ声を隠しもせずに尋ねると、二人は胸を張ります。

「だって、このほうがカッコイイじゃないか!」
「そこは賛成かな〜」

 いい年をしたおっさん姿たちがえっへんと威張っているのはなかなかにくるものがあります。私のまわりの男は、見栄っぱりばかりなのかしら、とエレインはこめかみを押さえました。エレインとしては、変に気負わず、ありのままの自分でいる男のほうが、ずっとかっこいいと思うのですが。
 しかし、そんなことを言っても仕方がありません。どっち? と迫る二人に、エレインは首をふりました。

「ここじゃ答えられないわ。一番に戻ったほうに、先に教えてあげる」

 元来た方を指さすと、ハーレクインとヘルブラムの間に火花が散りました。どちらが先につくか競争を始めるつもりでしょう。煽ったのは自分ですが、こうも簡単にひっかかったとなると、エレインは少しむなしくなります。 おっさんの野太い声が「よーい、どん!」なんて言っているのを聞かないふりをします。みるみるうちに小さくなっていく二人の姿を見送りながら、エレインは深く深くため息をつくのでした。

「どっちもカッコワルイわ……なんて言ったら、二人とも泣いちゃうかしら」

 応える声はありません。妖精王の森は静かになごやかな時を送りつづけていました。
 これは、皆が一様に、こんな時間がずっとずっと続くものと思っていたころのお話です。妖精の時計は、人間と違って遙かに永い時を刻みますが、人間と同じく、永遠を保証するものではないのでした。
 遠い遠い昔の話。今ではもう、誰からもふりかえられることもない、幻のようなひとときでした。

2014.04.03up@privatter
2014.11.24up