白砂を掴む。
太い骨に、固い肉を盛りつけた武骨な手を、砂の海に浸す。陽光に熱された海はざらざらと熱い。爪と皮の間に砂がもぐりこんだ。粒子のような細かな砂は肌と肌の間、皺の内にもはびこるのだろう。砂と手のひらとの、情熱的な抱擁。何人もの首を絞めてきた手は、確かに砂をその内に包する。
けれど――
持ちあげれば、砂はさらさらと
地べたに尻をつけ、無意味な戯れをくり返す彼を、太陽は沈黙したまま見守っていた。褐色の身を緋色の外套で包んだ彼の名を知る者は多い。しかし、その名に親しみをこめて呼ぶ者は限りなくゼロに近い。
その名を、バクラ。
古の王の墓を暴き、今日の王に弓ひく大悪党。かすめとった黄金を纏う盗賊の名である。
彼にとって人とは、砂と同じなのかもしれなかった。ただ手の内を通り抜ける有象無象。砂と違うのは、簡単に離れるか離れないかだけだろう。一度掴んだ人の首を離すには、彼をしても結構な力を要する。何故ならば彼にとって、首を手にするということは、その首の命を絶つことと同義なのだから。あまたに溢れる命の内の、ほんのひとつが冥界に呑まれるだけのこと。
「今日は風が強ぇな……」
流れ去る砂の帯を光のない瞳で眺め、バクラはひとりごちる。持ちあげた砂は消え、ただ空っぽのたなごころを天にさらしているだけだった。
「火をつけりゃあ、宮殿のひとつやふたつ、景気よく燃え盛ってくれるかもなぁ」
言葉に反して、口調は平らかに彼は呟く。城を壊す、墓を暴く、王を殺す――彼にとってはお馴染みの空想なのだろう。幾度も繰り返す
その証拠に、彼は口を笑いの形に歪めれど、真に笑うことはない。褐色の面に開いた亀裂から、乾いた息をもらす。からからと漏れるその声は笑い声というよりは、鳴き声のように聞こえるだろう。王朝を滅ぼすためだけに生きる獣の恨み歌。
空の手をおろし、彼は天を臨んだ。太陽の喉元に食らいつくかのように、あんぐりと口を開ける。響きわたる呵々大笑。世界を呪う咆哮。
「まぁ、首を洗って待ってることだな。ファラオの旦那」
ゆだる砂の海。獣の鳴き声は空へ流れていった。散った砂のように、空虚に、虚しく、王宮へ届くこともなく。ただ、砂塵に吸われ、消えていった。
了