見あげれば瞳を焼かれそうになる透徹な太陽の光。懈怠な晩夏の午後・生あたたかくぬかるんだ空気の淀み・庭先を横切る気の早い蜻蛉・それと知らぬままに・私は・腐っていく
「お疲れさまでした」
短い間だったが上司であった人を私は控え目な笑顔で送りだす。随分と悔いを残した表情をなさっていたが、私は言及しなかった。それが民の総意なら、従うしかないのだから。
まだまだ暑さの厳しい夏の終わりだった。小学生は長い休暇の終わりを惜しみながらも、明日から始まる新学期に、期待で胸をふくらましているだろう。あるいは、溜まった宿題の山を必死できり崩しているか。
例年と変わらない、夏の一ページ。
(いつもと同じですね)
彼は目を細めて空を見あげた。西の地平線へ下っていく太陽が、ゆっくりと光を橙に変えていく。西空はもう淡いピンク色だ。
タイムスリップした未来人がこの時間に降りたったら、きっと平穏な風景に驚くことだろう。
今日は与野党の鮮やかな逆転劇があった翌日だ。それがこんなにも普段と変わらないなんて。
だがそれも――
(いつもと、同じですね)
歴史、と呼ばれるこの国の歩みには、大きな転換点がいくつかある。と、されている。
後世の人々がそう語るエポイックデイは常に、彼にとっての「いつもの日」に訪れた。ゆるくゆるく流れていく日々、いつの間にか以前とは全く違う日々に変質してしまっている。それもいつものことだ。彼はその流れに身をまかせているだけ。そんな姿を何と呼ぶのか、彼は知らないふりをしている。
「どうなろうとも、私は皆さんに従うだけですから」
そうっと目を閉じる。明日からは、新しい上司と付き合っていかなければならない。去っていく上司の背を、これ以上映していたくなかった。
了