「なぁいんこ、お前は
と、トミーが尋ねたのは、夜も更けた二十二時過ぎのことだった。公演がひと段落して、明日からは少し長い休みが入っている。カウチにもたれて見ていた小さなおんぼろテレビは、出稼ぎ労働者たちの帰郷を伝えていた。
「そういうトミーはどうなのさ。おれ、トミーに世話になって長いけど、トミーのふるさとの話、一度も聞いたことないぜ」
「俺はいいのさ。同じ国だし、待ってる人もいないし。……だけどお前はまだ子どもだろう。それに日本人だ。言葉も違う。恋しいと思ったことはないのかい?」
「トミーはおれが日本に帰った方がいいと思ってるの?」
少年のシリアスな顔つきをピエロは大声で笑い飛ばした。その顔がおかしいという理由も多分にあっただろうが、暗くなってしまいそうな空気を吹きとばすためというのが主な理由だろう。
「そんなことは言いやしないよ。お前は小さいけど、俺の立派な相棒さ。勝手に帰ってもらっちゃ俺が困る。だがね、帰りたいと思ったことくらいはあるんじゃないかと思ってね」
おんぼろテレビのノイズが大きくなる。少年の声はノイズにかき消されてしまいそうだったが、トミーはきちんとその言葉を聞きわけた。
「そりゃあ、思っただけならあるさ。会いたい人だって……たった一人だけど、いる」
「ああ、そうだろうさ」
「けど」
少年は拳を握った。トミーの視線から逃げるように顔をそむける。
「けど、ダメなんだ。ぼくは帰れない。日本へは、帰れない。トミー、おれは役者になりたいんだ!」
人殺しの父を継いで、大会社の社長席に座りたいわけじゃないんだ。
告げなかった言葉をトミーが知るよしもないだろうが、ピエロの男は片腕で少年の肩を抱きよせた。
「そうかい、いんこ。わかったよ」
余った手のひらで少年の頭を撫でる。まるでホームドラマに出てくる父子を演じているみたいだ、と少年は思った。
「悪いな。立ち入ったことを聞いた」
「ううん、気にしてない」
笑って告げると、トミーは少年の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわす。本物の父親より父親らしいのは、トミーが天才役者だからなのだろうか。親子を演じるつもりはないのに。
手のひらのあたたかさは、そのまま彼の優しさの温度のようで、少年はこれを忘れたくないと願った。
了