「ゆうぎって、きれいな目してるよね」
きっと、杏子にとっては何気ない言葉だったんだろう。
小学三年生に恋の駆け引きなんて早すぎるし、そもそも杏子はそんなことをするような女の子じゃない。
ただそこに、幼なじみの杏子を友達としてじゃなくて、女の子として意識し始めてたボクがいただけだ。
だから、やけにドキドキしてしまって、こたえる声が裏返ってしまっていた。
「そ、そうかな?」
「うん!」
杏子はにこにこ顔で、そこに宝石でもあるみたいにボクの目を覗きこむ。ボクは杏子の猫みたいなブラウンの瞳のほうが、ぜったいにきれいだ、と思った。くりくりした目のなかで、セイレーンが歌を歌うようにキラキラ光ってる。
杏子はぐいっと身を乗りだして、ボクの頬をつかむように指を押し当てる。ボクの視界は杏子でいっぱいになってしまった。
「とくにゲームしてる時がきれいよね。ゆうぎの目、キラキラしてて」
キラキラなのは杏子のほうだよ、と思ったけど、言葉にすることはできなかった。ちょっとでも口を動かしたら、杏子の指に唇が触れてしまいそうで。そのせいで全身がカチコチになってしまう。
じっと見つめる杏子と、指一本動かせないボク。気がすんだ杏子が体を離すまで、ボクは心臓の鼓動さえ、杏子に伝わらないよう願った。偶然ちゅーなんかしてしまって、杏子に嫌われたらどうしよう。ありえない可能性が頭の中をぐるぐる回っていた。
「だから、ゲームしてる時のゆうぎ、かっこいいよ!」
パチン! と音がしそうなくらい見事なウィンクをして、杏子はえくぼを浮かべた。今はそんなことないけれど、子どもらしくぷくぷくふくらんでいたほっぺたには、簡単にえくぼができたのだ。
「そ、そうかな?」
「そうだよ!」
杏子はその場でくるっとターンする。赤いジャンパースカートがちょっとだけひらめいた。
首をかしげて、どう? と笑う杏子にボクはニッと笑顔を返した。杏子の返事はピースサインがひとつ。
そんな仕草を見て、ボクはやっぱり杏子はかわいいなって思う。大人になったら、ボクのお嫁さんになってくれるかな? だって、ボクのこと、かっこいいって!
ボクはへらへらした笑顔のまま、もう一度呟いた。
「そうかなぁ?」
そうだよ! と答える杏子の声が、何度も何度もリフレインしていた。
了