「ね、もう一人のボク」
きっかけは、なんてことのない相棒の言葉。
「手、つないで帰ろうよ」
とびっきりの笑顔で――といっても相棒の笑顔はいつだってとびきりで、ついついつられて笑ってしまいそうになるのだけど、それはともかく――相棒はそんなことを言いだした。紅葉みたいな手のひらがオレへとさしだされている。相棒の柔らかい指の感触をオレは知っているが、それに今、触ることはできない。
何故ならば――
「相棒、それは難しい相談だぜ。オレが表に出ても、お前が表に出てるままでも、どちらかは引っこんでなきゃならないんだから」
ほらな、と相棒の前で半透明の手をふった。オレたちは二心同体。ということはつまり、表に出ていないほうは実体を持っていない。相棒の体に厄介になっている身の上のオレは、ふわふわと隣で浮いていた。いつも相棒の側にいる。それで充分だというのに、相棒はまだニコニコしたまま、オレの透ける手に温かい手を重ねた。
「でも、ボクと君の動きをあわせたら、手をつないで歩けると思うんだ。モノは試しだよ、もう一人のボク!」
オレの手の上、本当は何もないはずの空間できゅっ、と相棒は俺の手を握る。よく知っている体温が伝わってきたような気がして、オレは真似ごとだけでも応えようと、おそるおそる手を握りかえす。
「これでいいか?」
相棒を見れば、顔いっぱいに笑みを描いて、「うん!」と元気いっぱいうなずいてくれた。さぁ行こう、と言うように重ねた手を引っぱるから、オレはつないだ手がほどけてしまわないように、相棒の隣りに立つ。半透明な足が地に触れて、同じ高さの相棒の顔に意地悪な言葉を投げてみる。
「なるほどな。オレに見下ろされるのに飽き飽きしたってわけか?」
「そういうわけじゃないよ! 君と一緒に帰ってるって、実感してみたくてさ。君、いつもふわふわしてるから」
相棒は俺の言葉を笑っていなして、腕をゆるく、ブランコみたいに揺らす。それを追いかけるように腕を動かすと、まるで本当に手をつないでいるように見えた。
実体の手と、半透明の手が描く、弧のライン。
他人には相棒一人が手を揺らしているようにしか見えないだろうけど、オレたちには確かに見える。幻のような、けれども確かに見えるもの。見えるんだけど、見えないもの。
「ね?」
「なるほどな」
自慢げな相棒に、苦笑で応える。けれどもこれは、相棒にあわせるオレが一方的に大変なのではないだろうか。そう問えば、相棒は悪戯っぽく舌を出した。
「バレたか」
「バレバレだぜ」
どちらからともなく笑いあって、そして手はしっかりとつないだままどちらからともなく歩きだす。
まるで魂までつながっているかのように、二人の手はぴったりと重なっていた。
了