■ナチュラルに社長とキサラさんが学校から下校中、かつ同居中。
彼はどうして彼女と手を繋いだのか。
彼女に尋ねれば、はにかんだ笑みとともに、
「私の足が遅いから……」
と答えるだろう。
察しの良い人間であれば、彼女がそれを心苦しく思っていることを看破できるはずだ。事実、彼の方は険しい顔で彼女をひっぱるように歩いている。
「私は、瀬人様のお家に置いてもらっているだけですけれど、瀬人様は、忙しい方だから」
さびしげに微笑んで、きっと彼女は自らを恥じる。
彼はどうして彼女と手を繋いだのか。
彼に尋ねれば、射るような視線とともに、
「貴様には関係のないことだ」
と返答を拒絶されるだろう。
しかし、彼をよく知る人間であれば、彼女と手をつなぐ理由が必要にかられたためでないことを看破できるはずだ。事実、足の遅い彼女をフォローするなら、彼は他に合理的な対処法をいくつも用意できるはずだ。
そもそも、二人で歩いて登下校すること自体、ひどく非合理なのだから。
ならば、何故その理由を黙するのか?
「ってゆうかよ、遊戯。男と女が手繋いで歩いてりゃ、デートにしか見えなくね?」
「城之内くん、それは言いすぎじゃない? それに人前で手を繋ぐのが恥ずかしいって人もいるって聞いたことあるよ」
「そうかぁ? 下校デートとか聞かねえ? 恋人同士が手繋いで帰ったりするんだとよ。っつーか、まあ、彼女なんていねぇオレらが話し合ってもしかたねぇことか。あーあぁ、どっかから彼女降ってこねぇかな」
「それは、無理だと思う……」
遊戯たちのたわいない雑談。
聞くともなしに聞いていた瀬人の脳裏によぎったのは、キサラの柔らかな声だった。
「瀬人様はお忙しい方だから、恋人ができたらデートとか大変でしょうね」
もとより、彼はそんな些事を気にする人間ではない。だが、キサラにお前はデートなどを好むのかと聞くと、憧れますねと返ってきた。
どうだっていいことだ。
彼は恋愛に憧憬など持っていない。男女が手を繋ごうが繋ぐまいが、なんの興味もわかない。彼女と恋人同士かと問われれば、否定するだろう。彼は学生である前にKCの総帥だった。スキャンダルは許されない。
デートなんてものに、こだわりなどない。そのはずだ。
けれど。
「せ、瀬人様! もう少し、ほんの少しゆっくり歩けませんか? 転んでしまいそうです」
「ふん、そうか……悪かった」
けれど、
それを聞いて以来、瀬人はずっと、キサラの手を繋いで下校している。
了