■注意
■死ネタ
どうして。
どうして。
彼の問いかけに応えようと口を開くと、こぽり、喉が鳴って味蕾に鉄錆が広がった。
見ずともわかる赤。金臭さが鼻腔をのぼって、目の奥まで痺れさせたようだ。焦点がうまく合わない。泣きそうになってる彼の顔も、かすんでよく見えなくなっている。
どうして。
どうして!?
何度も同じ言葉をくりかえす彼は、モノマネ役者ではなく、蓄音器になってしまったのだろうか。一本調子のセリフが後から後から降ってくる。幾重にも重なる音は、言葉の意味をなくしてしまうだろう。本来のインコよろしく、人間の発する音をなぞっているだけのようにさえ聞こえてしまう。人の言葉を、紡げなくなってしまったような。
こいつが喋れなくなったらどうなってしまうんだろう。サイレントの舞台にしか出れないじゃない。
ばかなやつ。これから本来の自分で舞台が踏めるっていうのに、そのチャンスをふいにするつもり? せっかくあたしが守ってやったっていうのに。
「どうして、こんなこと。ねぇ、どうして」
涙まじりの声。両腕をつかまれているらしいってことは、くいこむ十本の指の太さで伝わっていた。渾身の力でつかんでいるのだろうけど、感覚があんまり残っていないものだから、よくわからない。背に、ほのかにやつの感触がある。舞台に横たわっていたと思っていたけれど、いつの間にか抱き起こされていたらしい。
それよりも、ここはやけに寒いから、コートの一枚でも貸してほしい。
舞台の上って寒いのねと、瞳で呟いてみるけれど、どうにも返事をしてくれない。自分の問いかけに夢中で、それに答えない限り、相手をしてくれないようだ。うっとーしーやつ。
仕方ないじゃない。
あんたに生きてほしかったんだもの。
降り積もった「どうして」に回答を与えるのなら、それだけでこと足りる。
命を狙われたステージで、あたしに警備を任せたのだ。警察の意地にかけて、舞台は守ってみせる。だから、体を張ってやつを守った。そこに私情の色が濃かったのは、まだまだ精進の余地があるけれど。
でも、それだけのこと。
あたりまえのこと。
だいたいやつだって、同じ結末に至るつもりだったのだ。スポットライトに照らされた、華々しいエンドマーク。
あたしひとりを遺して、この長い長い復讐劇に幕を下ろすつもりだったのだ。
この結末は、遺される人が違っただけのこと。
いんこのシナリオでは、嗚咽も問いかけもあたしがこぼすはずだった。
逆転した役柄を、彼はぎこちなく演じている。
どうして……
ねぇ
ぱたぱたと、頬に落ちるのは言葉だろうか。それとも、やけに熱い涙滴なのだろうか。よく、わからない。
同じ言葉を同じようにくりかえす彼の声を、子守唄のように聞いている。
ばかね、陽介くん。
おんなじことをしようとしてたってのに、いざ自分がされるとなると泣きべそかくなんて。
自分がされて嫌なことは、人にしちゃいけないって、習わなかったのかしら。
いい気味よ。
あたしがこんなにもきみのこと好きだってことも、わからなかったんだもの。
せいぜい泣いて叫んで許しを請うといいわ。
あんたのどうしてに答えてあげるつもりなんて、さらさらないんだから。
「どうして、息をしていないの」
……さぁ、どうしてでしょうね。
了