もう六月だというのにその日は朝から快晴で、ボクは窓から射す朝日で目が覚めた。お天気キャスターさん曰く、梅雨入り前の最後の晴れ間なんだとか。そんなことを聞くともなしにトーストをかじっていると、いつの間にかぎりぎりの時間になっていて驚いた。 「いってきまーす!」 じいちゃんに見送られて、明るい陽の下を走る。呼吸するたびに初夏のさわやかな空気が胸にしみていった。全身の細胞が新陳代されてゆくのを感じる。まるで朝陽によって生まれ変わっていくような。 学校に着くと、みんなが教室の隅で隠れてクラッカーを鳴らして祝ってくれた。 杏子はカップケーキを作ってくれた。 城之内くんと本田くんは二人でこっそりと年齢指定のビデオを渡してくれた。 獏良くんはTRPGの新しく書いたシナリオで今度みんなで遊ぼうと約束してくれた。 御伽くんは試作だけれど自信作の新作ゲームをくれた。 みんな笑顔でボクのことを祝福してくれる。 数年前なら空想さえできないような光景に、ボクは笑いながら涙があふれそうなのをこらえていた。 出席日数稼ぎのためにたまたま登校していた海馬くんは、ボクらの騒ぎに眉をひそめていたけれど、午後になるといつの間にか背広の人に持ってこさせていた海馬ランドの招待券を贈ってくれた。裏側に「海馬瀬人にデュエルが挑める券」みたいなのがくっついていたのは、彼なりの好意の示し方なんだろうと思うことにした。 授業が終わって、教室で大分ダラダラした後、陽が落ちてきたので僕等は解散することにした。扉を閉める時、ふりむくと教室が真っ赤に染まっていた。ボクの頭の上で「あいつのコートみたいだ」と獏良くんが呟くのが聞こえた。はっとして見上げたけれど、彼はいつもの顔でにこりと笑うだけだった。 ボクらは笑って、帰路についた。 家につくと、まだじーちゃんは店番をしているみたいで、ボクは一人で部屋に入った。赤色の陽が部屋を染めて、影を濃く落としている。 ひとりになって、ボクはこっそりため息を吐いた。 やっぱり、君は来てくれなかった。 もしかしたら奇跡が起こって、突然君がボクを待っていてくれるなんて都合のいい展開があるかもしれないと思ったのに。 16歳の君は3000年前に死んでいて、3000年後の君はもう扉の向こうに旅立ってしまった。 そのハザマで、ボクと君は出会って、ボクは未だ現世に取り残されている。 バッグを放って、椅子に座る。窓際の机は部屋の中で一番あかりを受けられるところで、赤々と輝いていた。 ボクはそこから夕焼けを眺める。 強く燃えながら西の地平に堂々と沈んでゆく太陽は、君を思わせた。 エジプトから帰ってきてから、何度思ったか知れないけれど、やはり君はいないんだと強く思う。 ボクは前にしか進めなくて、君と過ごした日々はどんどん遠ざかってゆく。 君は16歳のままだけど、ボクはその歳から離れてしまっていく。 けど、それは君に近づいてるってことだよね。 16と、3000と、+α。 君の歳にはけっして追いつけない。けれど、君が今いるところには、たぶんそのうちいけると思うんだ。 ずいぶん先のことになると思けれど。 待っていてほしい。 そしてたくさん話をしよう。 土産話だってたくさん抱えていくから。 君は待ちくたびれたって言って笑うかな。 そしたらボクも、君は早くいきすぎだと言って笑ってやろう。 ねぇ、もう一人のボク、 ボクは今日、ひとつ歳をとったよ。 |